おしゃべりのようなもの

記録と記憶です。

【配信作品】ながめくらしつ「…の手触り」〜こころの手触り〜

 

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Might be in situ -the unseen- 「…の手触り」〜こころの手触り〜 

配信作品の【ながめくらしつ「…の手触り」〜こころの手触り〜】を観ました。

 

今回は12/26,27に沼津ラクーンで公演された同作品の動画配信版(別撮り)で、オリジナル版と音声ガイド版があります。 

生の公演については、公演を観た後に別の記事で書きましたが、今回の動画配信を観ることで、視点を変えて作品を観ることができたと思います。

 

安岡あこさんの、冒頭の糸の海にいるシーンでは、糸が体に絡みつき、身体を捻ったり、腕を伸ばしているシーンが配信だとより近くで見ることができて、美しさがダイレクトに伝わってきてとても綺麗でした。

 

そして、サノユカシさん制作の大きな壁のシーン。音声ガイド版での呼吸の音がとても印象的で、スー、ハーという呼吸に合わせて思わず私も一緒に呼吸をしてしまいました。とても好きなシーンです。

 

人形使いの長井望美さんが、人の形をしたモノを踊らせているソロのシーン。

その一つ前の壁のシーンからですが、撮影のフォーカスが人形よりも長井さんにあったことが意外でした(音声ガイドでも、髪を結んだ女性として長井さんの動きについて説明することが多かった気がします)。

私自身は、生の公演を観ていたとき、壁のシーンからずっと視点が人形の方にあったと思います。自然とそうなっていました。

動画配信では、最初は長井さんの動きにフォーカスを当てていたのが、この人形のソロのシーンを続けていくうちに、次第に、視点が人形へ移っていくようなつくりになっていたと思います。

その次のシーン、人形と人間が一緒に踊るシーンでは、撮影の視点も音声ガイドも、自然と長井さんではなく人形の動きに移っていて、自然な視点の変化が素晴らしいなと思いました。動画作品ならではの、「視点が制限されている状況」だからこそ、生とはまた違う面白さがあったように思います。

 

人形と人間が踊るシーンでは、あこさんがしゃがんで人形に向けて指を躍らせるシーンがとても好きです。お花が咲くようなパッとした指先の動作、あこさんの表情、どれも素敵でした。また、そこからふたりがいっしょに踊るシーン。そこのふたりの動きも、音楽もとても好きです。人形が取り憑かれたように踊るシーンも、好きだなぁと思いました。

 

たくさんの好きなシーンがあって、動画作品ではそれらのシーンを見返したり、音声ガイド版で観たりすることで、様々な楽しみ方ができます。

 

この作品のテーマでもある「変化と選択」は、実際に会場で観劇したそのときと同様に、動画配信作品を観るときでも、私たち見る側に委ねられ、選ぶことができるんだなあと感じました。能動的に観ることができる配信作品、とても面白いなと思います。

 

 

今回のように、この具体的に「ことば」にするのが難しい抽象的な美しさの作品を、音声ガイドとしてことばで表現し、わずか公演から1ヶ月程度で一つの作品として完成させたことが、すごいことだなと感じています。特にテキストをつくった藤原佳奈さんの言葉選びと、青柳いづみさんのナレーションは心を惹きつける魅力がありました。 

 

そして、オリジナル版に関しても、現地でみたときとは違った印象が新鮮で、視点の変化や細部の美しさが、映像ならではの良さとして浮き彫りとなっていて、音楽も美しく、クオリティーの高い映像作品となっているなあと改めて感じました。

 

今回の〜こころの手触り〜の音楽は、チェロソナタ。私は当日会場で聴いた、震えるように儚く、そのときにしか生まれなかった演奏が、いまだに忘れることができません。本当に美しく、作品全体を緩やかに後押しするような演奏は、あのとき世界中の人たちと共感できたらと強く思ったほどでした。

映像作品となった今も、この曲は一つの絵巻をぐるりと進めてくれるような役割を担い、物語をそっと後押ししています。旋律の美しさは、前回の作品〜昨日の手触り〜同様、さすがイーガル作品だなと思わずにはいられませんし、コミテツさんの線の細い儚い音色は物語の危うさや儚さを引き立て、時に意志の強い音色にかわった時には、演者の心の動きや決意を表し、表現を引き立ててくれています。

また、音声ガイド版となってもナレーションの声とのバランスも考えられているようで、細部までこだわっていてすごいなあと思いました。

 

今回、この「音声ガイド版」について、私は 「ノンバーバル(言葉や文字を使用しない)」のながめくらしつ作品に「ことば」がつくことで、どのようになるんだろうとわくわくしていました。作品をみて、想像を超える良さでとても満たされた気持ちでいます。

ながめくらしつ本来の言葉を使用しないことで伝わる曖昧な感覚や表現が、言葉を付けたことで新たな表現となり、全く別の感覚が観る側に生まれてきたように思います。

 

ことばがない作品を観ると、自分のこころの中心部分に感情や感覚がじんわりと生まれますが、ことばがつくと、そのこころの外側をそっと優しく撫でられて、外的刺激を受けることで自分の感情が助長され生まれる…そんな感覚になります。

作品をみて感じること…あたたかさ、もどかしさ、切なさ、苦しさ…それらは生で観ても、オリジナル版でも、音声ガイド版でも、同じように心の中に生まれますが、ただ、それらの「質感」が自分の心に違ったかたちでやってくるように思いました。

 

元々は、視覚障害を持っている方でも楽しむことができるための音声ガイドだったと思いますが、今回の音声ガイドのように、ただ状況を説明するだけでなく、数々のことばを付けたことによって、全ての人が楽しめる新しい作品になったと思います。この作品を言葉付きで観ることができてとてもよかったです。

 

 

私は、今回のテキストをつくった藤原佳奈さんのある詩に以前出会い、その詩は私にとって大切なことばとして、ずっとこころの中にあります。

その詩は、こんな詩です。(記憶を頼りに書いているので漢字等間違いがあるかもしれません)

 …

 

僕らはまわる星の上 くるくる悩みながら

広くて狭い星に ばらばらにぶら下がって

昔々も今も あんまりかわりばえなく

泣いてるあの人の その訳を知りたくて

 

ららんららん ららんららん

気づけば飛び跳ねてた

 

今でも飛び跳ねてる

 …

 

 

この詩を歌にのせて初めて聴いたとき、私は、とても励まされるような、勇気づけられるような、自分の悲しみを拾い上げてもらったような、あたたかく包んでもらったような…様々なあたたかい気持ちになりました。

また、この歌は、作品をつくっている人たちの言葉にも思えました。

同じ星の上で、自分と同じようにくるくると悩み、ばらばらでぶら下がっている人たちが、何かを私たちに届けようと、あの手この手で創作し、飛び跳ね、投げ、廻り、踊り、作品をつくっている。

作品を観ることで感じることができる様々な感情…美しさ、儚さ、苦しみ、切なさ、怒り、憤り、温もり、悲しみ、愛おしさ…それら全ては、届けられるべくして創られているんだなと感じました。そうやって創られた作品が私は好きだし、これからも観続けていきたいと思います。

 

 

 

 

今回も、藤原佳奈さんのことばで印象的だったものがあります。

 

 

生んでも 生まれても

その一瞬 静かな後悔がある

一度生まれてしまったものに 戻る穴はない

 

 

あなたと私

挨拶 じゃれあい 嘘 喧嘩 親しみ 恐れ 寂しさ

あるいはその全て

 

あなたと私

二人きりで 踊った

 

 

生んでも、生まれても、一瞬静かな後悔がある

一度生まれたら戻れない

それは様々なことに言えるなと思いました。

自分自身、こども、おとな、ことば、作品、感情、音…。

 

 

そして、他人と交わることで生まれる様々なこと…

挨拶 じゃれあい 嘘 喧嘩 親しみ 恐れ 寂しさ

あるいはその全て…

これらが、私は「こころの手触り」を表しているんだと思えて、

こういった喜びや面倒臭さ、全ての「こころの手触り」が他人と生きる、一人では生きられない、避けては通れないこと…なのではないかと思いました。

 

 

今回のように音声ガイドがあり、ことばを通して作品を観られる機会はそう多くないかと思うので、私はまた多くの言葉をこころで繰り返し唱えながら、作品を何度も観たいなと思っています。

「変化と選択」というテーマのもと、オリジナル版であったり音声ガイド版であったりを観られるので、この作品がより多くの人の目に触れ、変化と選択を楽しみながら、自分の心の動きを感じたり、「こころの手触り」とはなにか想像しながら届くことを強く願っています。

 

素晴らしい作品をありがとうございました。

 

*音声ガイド版(配信終了日 2021年3月21日

theatreforall.net

 

*オリジナル版

vimeo.com