おしゃべりのようなもの

記録と記憶です。

スケラボ×ながめくらしつ「咲き、くり返す」|ヴァンジ彫刻庭園美術館(クレマチスの丘)

ヴァンジ彫刻庭園美術館のガラスに描かれた絵(2022.10.30)

わたしは、この美術館が好きだ。

このお庭、綺麗な緑。静かな空気。鳥の声。さらさらと吹く風。

ひんやりとした建物の中。やわらかな曲線の彫刻。特に大理石の彫刻作品はひっそりとした空間でやわらかな光を放つようで、冷たい石なのにどこかあたたかく感じて、柔らかそうに見えてとても好きだ。

 

「美術館で現代サーカス作品をやってみたい」と言う話をきいたとき、「あぁこの場所で観られたら」と思った。

ここのお庭にトラスを建てられたら。彫刻の中を踊るあこさんを観れたら。お花やハンモックの中でまどろむ長井さんのお人形が観れたら。この建物の中でイーガルさんの曲が流れたら。リング、コンタクト、ボール…さまざまなジャグリングを風の音と一緒に静かにながめられたら…。

そんな夢のようなことが、ほとんど叶った。今年の4月のオープニングアクトからはじまり、今回の「咲き、くり返す」で、たくさんの奇跡のような瞬間に出会えた。

ヴァンジ彫刻庭園美術館 開館20周年記念展「Flower of Life 生命の花」オープニングアクト(2022.4.23)
人や道、庭を包み込む手(白い絵の具だけ)

ヴァンジ彫刻庭園美術館 開館20周年記念展「Flower of Life 生命の花」オープニングアクト(2022.4.23)
丸、たくさん

ヴァンジ彫刻庭園美術館 開館20周年記念展「Flower of Life 生命の花」オープニングアクト(2022.4.23)
静かなジャグリング

ヴァンジ彫刻庭園美術館 開館20周年記念展「Flower of Life 生命の花」オープニングアクト(2022.4.23)
心に宿る「種」

ヴァンジ彫刻庭園美術館 開館20周年記念展「Flower of Life 生命の花」オープニングアクト(2022.4.23)
壁とボール

開館20周年記念展では、ヴァンジの彫刻作品の他にも「生命の花」にちなんだ作品が多くある。花、種、命…いろんなモチーフの彫刻や絵、写真、書がある。このパフォーミングアクトはどんな位置付けだろうと「咲き、くり返す」を観ながら考えた。

私には、パフォーマーひとりひとりが花にみえた。

ジャグリングも、絵を描くことも、エアリアルも、ダンスも、作曲も、演奏も、人生をかけて続けている大切なもの。生命と同じくらい大切にしているもの……それらの「命」を私たちの前でみせてくれた瞬間に、パフォーマーは花となって開き、私たちの心に「種」を宿した気がする。感動、驚き、不思議、おもしろい…さまざまな感情は「種」。

きっとその種は、観た人それぞれの心にやどり、やがてどこかで芽が出て、花開く。すると、きっと今度は観た私たちが、誰かの心に種を宿せるだろう…。

この三日間で、きっと多くの人の心に「種」が宿った。

命や人生をかけてきたそれぞれの大切なもの。ひとりではそこで終わってしまうほど儚いものが、人の目に触れることで命(種)として残り、咲き、くり返されるのではと思う。

そんな大切なものを詰め込んだ儚く美しいパフォーマンスを観れた場所が、この天国みたいに美しい夢のようなヴァンジ彫刻庭園美術館で、本当によかった。

 

このパフォーマンスをつくってくれた方々全てに感謝の気持ちです。

「できることならまたこの場所で、くり返しスケラボ×ながめくらしつの公演が観られますように」と、奇跡のような三日月を見ながら思いました。

三日月(2022.10.29)

 

………………

ここからは、写真に公演の感想を載せます。

読んでいただけたら嬉しいです。

生の花びらとティシュー(2022.10.30)

愛実さんがくるくると空で舞い、スカートがお花のように咲き、この花びらがぶわっと落ちていく、この瞬間が忘れられない。
ティシューの艶やかな色が、最後、照明によってモノクロになる瞬間「花の最期」だと思った(ユカシさんの絵画のタイトルの通り)。
ただ、その花が最期をむかえても、命はまたくり返す。

いつかその誰かが死んでも、この作品が、ジャグリングが、現代サーカスが、音楽が、絵が、ダンスが、残りますように、という願いや祈りを感じた。

 

ボールと絵(2022.10.28)

絵をいっしょに地面に置く瞬間が好きだった。私も参加させてもらって嬉しかった。

私はコロナ禍に入った頃からながめくらしつを知り「…の手触り」3部作を通して、スケラボと出会うことができた。
触れられなかったあの頃と比べると社会全体で人との距離がまた少しずつ近づいてきているように感じるけれど、不思議とスケラボとながめくらしつのつくる作品は、パフォーマンスと観客との距離が「…の手触り」の頃からずっと変わらないように思う。
それはきっと、“作品(パフォーマンス)対 観客”ではなく、作品の中にわたしたち観る者を置いてくれているからじゃないかなぁと思う。
秋の夕暮れの広い庭園空間でも、美術館という美術作品がある空間でも、ラクーンという廃墟のようなひんやりとした空間でも、私たちを作品の中に招き入れてくれる。
このやさしい芸術が私は大好き。
これからも、さまざまな作品の中に招かれたいなと思う。
 

鳥の絵のシャツと月(2022.10.29)

近づくと、鳥だった。私はユカシさんの絵が好きだ。

 

コンタクトボールとシャツ(2022.10.29)

お洋服をかけるのが好きだ。コンタクトボールが好きだ。

17時の鐘のとき、目黒さんのコンタクトでよかった。静かなジャグリングと時報に合わせたイーガルさんのピアノの音。

そして、この美術館の壁に映る影。写真ではシャツだけど、公演中にエアリアルのふたりの影が映っていたのが本当に美しかった。

美術館の中のやわらかな彫刻たちと比べてコンクリートの無機質な壁だけど、だからこそ彫刻が引き立つんだなぁと、壁に映る美しい影を見ながらぼんやりと思った。

 

ボール(2022.10.28)

ながめくらしつをこの美術館で見れて本当に嬉しかった。今回の音楽も本当に好き。いい楽曲だし、素敵な演奏だった。

明るくてキラキラしている曲は少し珍しい。私は「こもれび」というイーガルさんの曲が好きなんだけど、少しそんなような明るさだと思う。お花のような、命のような、明るい儚さ。この楽曲をまた聴きたい。

(ビュフェ美術館のあの天井の高い部屋で、生のピアノでのパフォーマンスもいつか観てみたい。)

 

………………

 

またここで、みられますように。

幸せでした。